3.一千年の悪夢

 カヲルは不機嫌そうに言った。
「なぜアキラがここにいる」
 地下で日の光が差し込むことのないホームに時間の経過を知らせ
るためか、擬似的に作り出された夕方の雰囲気が漂う。
そのホームの椅子に、まるで金持ちの社長のような風体で座ってい
るアキラ。
アキラに、カヲルは顔を寸前まで近づけていた。
「いいじゃん、いいじゃん。気にすんなって」
 アキラはカヲルのいいたいことがわかるのか、笑って誤魔化すと、
ようやく人影もまばらになったホームに立ち上がった。
あと数秒もすればホームに電車が滑り込んできて……再び人でごっ
た返す。
当のアキラは、いまだに気分の悪そうにしているバドを支えている
ためか、元々人ごみが嫌いなのかは分からないが、人がはけるのを
待っていたようだった。
 今、カヲルがいるのは『ジェグシティ』。もっとも技術が進んで
いる国の、もっとも機械化が進んでいる都市である。ヴァンパイア
がもっとも生息しにくいと思われる都市だった。異常に大きいビル
が都市の中心に三つ建っており、その高さは80階だという。
 そのビルの一つがステイションビルである。各種の販売・サービ
ス業のコンテンツや、数件の百貨店が入っており、駅にいるとは思
えないほどの場所だった。このビルの上層部40階ほどは高級ホテ
ルとして経営されている。
またその近くの少し低い(とは言え、60階はある)ビルは各役所・
警察機構がごったになって設置されている。
最後の巨大ビルは、高さが100階あり、世界各国の各企業の事務
所などが在籍している。
その三つのビルを中心に、リング状に住居街が存在している。その
居住区は大通りによって五つに分けられている。今でこそA〜Eの
アルファベットで呼ばれているが、昔は地区それぞれにちゃんとし
た名前があったらしい。

 カヲルは駅から直で行けるビルから、その上層部にある指定され
たホテルのカウンターに名を言った。すでに手配済みなのか、すぐ
にカヲルは部屋のキーを渡された。
 アキラは部屋の様相を見て、口笛を吹いた。
「随分とまーいいご身分までのし上がったもんだねぇ」
「そこまでなった覚えはない。バドはそこに置け」
 カヲルは、バドをソファーに横たえるようにと指示した。
「ベッドに寝かせてやったほうがよくないか? せっかくのスイー
トで、ベッドもいくつかあるんだからねぇ」
「だ、大丈夫です」
 バドは慌ててアキラから離れてソファーに座り込んだ。
「見ているこちらのほうが気になる。目障りだ、寝てろ」
 カヲルにそうすごまれて、バドは小さく返事をすると、ベッドル
ームの一つに姿を消した。
アキラはアキラで、そそくさと部屋の内部を探りに行った。
 部屋は、ただのスイートではなかった。きっとロイヤルとつくか
も知れなかった。
 ベッドルームが二つあり、その各々にバスルームが設置されてい
る。その他には小さな(とは言っても十分広い)書斎までもが存在
していた。トップクラスのビジネスマンが数日間過ごすためには十
分な部屋だった。
ふとどこからともなく電話の電子音が響いた。やっと見つけた電話
からは、ファックス機能がついているのか紙が流れ出ていた。
 内容を見ると、最初に送信先がシティ警察であることが書かれて
おり、依頼内容が書かれていた。
 依頼はごく簡単なもので、電話で述べられたのと同じだった。こ
こ数十年おさまっていたヴァンパイア騒ぎが再び起こり始めたとい
うらしい。数十年前は数人の被害者で、死者も出ずに納まったらし
いのだが、今回は違うようだった。毎晩、数体の死体が……肉片の
みと化して見つかったのだ。
 警察も、当初は猫か何かの死体だと思って気にも留めていなかっ
たのだが、その肉片を暇つぶしにDNA鑑定を施す輩がいたらしく、
事が発覚した。警察も、人が増えれば変なのが一人や二人いてもお
かしくないのだろう。
一応事件は猟奇殺人として公開され、人々に戸締りと防犯システム
の強化を図るようにとの警告を出してはいるが……夜でさえ動き続
けるこの『ジェグシティ』だ。犠牲者が減ることはない。

 事件の経過が記されたものの後、最後に署長自ら挨拶に来るとの
連絡が、ファックス通信の最後を飾っていた。
 カヲルがファックスの中身を読んでいる間に、アキラは「カジノ
に行って来るね〜」とホテルの部屋を出て行った。



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