2.What is a VAMPIRE?_3

 カヲルは自分のベッドで横になった。ベッドからは、ほのかに先
ほどまで寝ていたバドのものと思われる匂いがついていた。甘く爽
やかな匂いだった。
 横になったカヲルのベッドに、ハイネが腰掛けた。そして、自分
の長く赤い三つ編みの先をもてあそぶ。しばらくそうしていたハイ
ネだが、飽きたのかカヲルに手を伸ばしてその頬を触った。
「な、なんだ」
「いえ、なんでも」
 しばらくして、カヲルは口を開いた。
「で、アキラに何をされた」
「はい?」
「だから、その……あの男のことだから、何をしたのか、だな……」
 カヲルはそう言って黙った。ハイネは一瞬わけのわからぬ様子だっ
たが、ぽんと手を打つと答えた。
「ああ、そういうことですのね。地下でほぼ体の修復が終わった私は、
ふと気づくと屋敷内の一部屋のベッドにいたわ。そして、目の前には
貴方そっくりの人間。喉が渇いていた私にはすごくいい匂いだった。
そのまま彼を……アキラ様を押し倒して血をいただかせて貰いました
わ。あまりにもおいしかったもので、そのまま刻印を押し込んだので
すが……」
 そこで言葉を切ってハイネは頬を赤らめた。
「そう、そこまでは良かったのですが、今度は逆に押し倒されてその
まま……犯されてしまいましたわ」
 あっさりと言われて、今度はカヲルが顔を真っ赤にした。
「あんのクソ男! あとでぶん殴ってやる!」
「もしもし、カヲル様? たいした事ではございませんでしたわよ。
まぁ、中身については大層なものでしたけれど」
 カヲルは勢い良く起き上がり、呆然としたような顔をハイネに見せ
た。
「それにしても、なぜ、どうしてアキラ様はあんなにまでも強いので
すか?」
「それは……ヤツが聖人だからだ」
「は?」
「聖人だ。その血には全てを清めると言われている。ま、早い話、ラ
ンクがあるとしたら一番地位の高いヴァンパイアハンターってことだ。
だからアキラにはヴァンパイアに対する余裕ってやつがあって……相
手が改心するまで、いろいろな意味で追い詰めていく。ただ、相手に
極端に女のヴァンパイアが多いんだ……」
 カヲルとハイネは、しばし見詰め合った。


 アキラは、ソファーに横たわったままのバドに話し掛けた。
「なぁ、傷は大丈夫か? 見せてみろ」
 バドは素直にアキラに右手を見せた。
「悪いことしたなぁ……てっきりカヲルに復讐でもするかと思ってな」
「復讐を考える人がのんきに掃除機片手にしてます?」
「いや、適当な鈍器にもなりうるし、コードで縛り倒してとりあえず
いかがわしいことでもするのかと思ってねぇ」
「したら殺されます」
「少なくともそう言うことを考えたことはあるのだね」
「ないです。頭に浮かんだだけででも感づいて物投げられます」
「やっぱり考えたんだね」
「いえいえ。ほら、テレビとかでそんなシーンがあったんですが……
少し見入ってしまったんですねぇ、牛乳のパック投げつけられました
……」
「それはそれは……いやなもの滴ってるいい男だねぇ。そんなもの投
げつけられて、怒ったりはしなかったのかねぇ」
 バドは小さく笑って答えた。
「怒りませんよ、僕の手料理は投げつけられなかったし、そもそもカ
ヲルさんは恥ずかしがってやったことですから」
 アキラは笑顔のまま固まっていた。
――ずいぶんとまぁ、カヲル慣れしてるな
 アキラはそんなことを思いつつ、本題を切り出した。何気にソファー
に寝るバドにのしかかって。
「あの、重いんですけど」
「男が少々のことで文句言うなよ。ずいぶんとガキっぽい顔している
な、いくつだ?」
「約400ぐらいです」  徐々に重みの増してくるアキラの重みに顔をしかめながらバドは答
えた。アキラは複雑そうな顔をしてさらに言った。
「一応成人の域には達しているんだな。ところでオマエ……俺の血を
受ける気はないか?」
 しばし間があって、バドは「はぁ?」と変な声をあげた。アキラは
なおも同じ質問をした。
「だから、俺の血を飲む気はないかって言ってるんだ。今なら通常よ
り二倍の馬鹿力がついてくる」
「それはありがたいですが、なんでそんなことを? 第一、人間の血
を飲んだだけじゃ力が上がるのはせいぜい一日か二日。元々力はある
ほうですし、特に必要としていませんから」
 バドはそう言って、力でアキラをどかそうとしたが……体が弱って
いるせいか、それはできなかった。アキラは顔を歪めるバドをニヤつ
いた笑顔で見つつ、言った。
「それともう一つ。カヲルのこと頼んでいいか?」
 バドは、再び「はぁ?」と聞き返した。
「一応、面倒見てもらってるのは僕のほうですが」
 アキラはため息をついてバドを押さえつけた。
「オマエは本当にアレだな、俺がカヲルをヤッちまうわけにはいかん
だろうが。だから頼んでるんだろうが」
「はっ? はあああああ?!」
 アキラは、バドの口を手でふさいだ。
「うるさいな。経験ないわけじゃなかろうに」
 バドは、心中で「こんなこと頼む身内もいないでしょう」などと考
えていた。
「あんなに男嫌いなカヲルが男であるオマエをそばに置いておく事か
らして脈ありだし、俺はカヲルに何も教えなかったし……何年側にい
たかは分からないが、その間指一本カヲルに触れていないようだしな
ぁ、オマエも。もっとも、カヲルに全くと言っていいほど魅力が無い
がね」
 アキラはそう言いつつ、バドの長髪を止めていたリボンを解き取っ
たっなにか言おうとしたバド口を再びふさぎ、アキラは虚空に向かっ
て言った。
「ハイネ、人の情事を黙ってみているだなんて趣味が悪いぞ」
「あら、バレてしまいましたのね。カヲル様が不貞寝されてしまった
ので、暇しのぎに覗きにまいりました」
 天井に浮くようにしてハイネがいた。
「姉さん! この人をどかしてください! アキラさんなにしてるん
ですか!」
 自由になった口で、バドは怒鳴った。先ほどバドの髪から解き取っ
たリボンで、アキラはバドの両手をまとめて縛ろうとしていた。
「いやぁ、いろいろと教えてあげようかなぁ、と思って。それに、い
つもとちょっと違った方法もいいんじゃないかな、とも思ってだね」
「やめてください! あんまりからかわないでください……僕だって
伊達に年を食ってるわけじゃありませんから」
「それだけ伊達に貴族をしていなかった、とも言えると思うけれどね」
 アキラにそう言われて、バドは押し黙った。と、手首が締まってバ
ドは小さくうめいた。杭を打ち込まれた傷が痛んだ。
「悪い悪い。ほら、ハイネ、治してやってくれ」
 ハイネはバドの手に唇を寄せ、固まっている血を舌先でなめて溶か
した。
「姉さん、先にリボンを外してもらえませんか……?」
「似合ってるからいいじゃない」
 二度いっても無駄だと悟ったバドは、それ以上何も言わなくなった。
 ふと、電話のベルが鳴り響いた。
「あの、出ないと……」
 バドの言葉に反応する者はいなかった。
「ほっといてもいいだろう。そのうち鳴り止む」
 アキラはそう言ったきり、バドの上から立ち上がる様子はない。そ
れどころか、バドの顔が苦痛に歪むのを見て、少し楽しそうだ。
「でも、きっと仕事の話です……姉さん、痛い……」
 バドがそう言っている間に、電話は鳴り止んだ。
「今治すわよ」
 ハイネは、バドの手を自分の両手で包み込むと、治療を完了させた。
「終わったわよ。でも、お楽しみはこれからだから、ソレは外さない
わよん」
「ねーさん、お楽しみってねぇ……食事の後片付けはしなくちゃいけ
ないし、そんな暇はないですよ」
 派手な音がして、ダイニングとカヲルの書斎とをつなぐ扉が開いた。
「アキラっ! またバドに何をしてやがる!」
「なーんもしてないさぁ。ただ手を治すのに痛がって暴れられると厄
介だからねぇ」
 アキラはかるーく笑い飛ばしてバドから退いた。
「そうか、俺はてっきり昔の変態癖が出たかと思ったのだが。俺は仕
事の依頼が入ったから出かける」
 カヲルはそう言い残すと、仕度を始めるためか自室へと向かった。
その背に、バドは言った。
「カヲル! 僕も連れてって……」
「おまえ、大学あるだろうが」
「休暇届出してくる。この人たちと残されるのでは不安で……」
 ひらひらと手を振るアキラと、ニコニコと笑顔を浮かべるハイネと
を順に見て、カヲルは「そうだな」と言ってため息をついた。
「今回もヴァンパイアがらみだしな。さっさと仕度しろ」
 バドは「はい!」と返事をすると、自分の小さな部屋に引っ込み、
カギをかけた。
 カギをかけた理由は一つ。
アキラとハイネの二人が“何をしてくるかわからないから”である。



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